前作『転々』(2006年)に引き続きNYでレコーディングされた最新作。2008年4月25日リリース。現在のメンバー(巻上公一(vo)、三田超人(g)、坂出雅海(b)、清水一登(key)、佐藤正治(ds))となってから数年を経て、熟成度も増した繊細かつ重厚な、ある種侠気あふれるクールなサウンドに魅了される。即興とソングのミックス加減も絶妙。ここ数年のライブの定番になりつつある「デジタルなフランケン」や「入念」の緻密に改訂されていったアレンジの素晴らしさには唸る。このアルバムのテーマは何と環境問題!しかしそこはヒカシュー。世にはびこるロハス企業とタイアップした商業音楽の生ぬるさのかけらも感じさせない巻上のうたの世界には、30年間ロック、ポップス業界の中にあって常にアウトサイダーであり続ける彼らの生き様の軌跡が見える。怒りも呆れも疑問も赦しも諦観も全て内包しつつ揺るぎない意思を発露させて聴き手の心に迫ってくる「ベトベト」や、誰もが深刻に思いつつでもなかなか口にしない言葉を飄々とキャッチーに歌い上げた「オーロラ」などは、間違いなく今後のヒカシューの代表曲になっていくであろう傑作だ。そして、ジャケット及びブックレットを飾る逆柱いみりのイラストレーションがこのアルバムの世界観そのものを表出していて本当に素晴らしい。 生きること 関連情報
当時、日本のニューウェーブ・バンドなんてほとんど期待していなかった。ただし、フリクションを除いては。
この作品は、私の師叔する近田さん絡みで聞いたのだけど、YMOの作品以上に今だに印象に残っている。サウンド自体がそれほど斬新なわけではないが、作品モチーフや解釈が独特で非常に面白い。特にこれといったメッセージがないのもまたいい。こうした音楽はかつてなかったと思う。音楽というよりも文学に近いのでは。
彼らの音楽の素晴らしさを的確に表現するコトバが見つからない。でも見つからなくてもどうでもいいじゃない。
それこそ変な楽曲の連続だが、当時のチャクラや戸川純作品と並んで、愛すべき未来派音楽だと思う。今でも大好きだ。
ヒカシュー 関連情報
『ニューウェーブ』と業界から曖昧なカテゴリを与えられた当時の彼ら仲間達の
P-MODEL、プラスチックス、リザードなどの中で、その殆どが洋楽の負い目をどこ
かしら背負っていたのに対して、映像と演劇の世界の延長とも言える活動のヒカ
シューはそのなかでも初めから独特の存在感を発していた。
生真面目で、考えすぎて理屈をこねすぎるP-MODELやリザードはアーチスト
というより運動家と言った印象があったたが、ヒカシューはその意味では
巻上公一と言った希有なタレントが、フリークスまがいのパフォーマンスを
交える真のアーチスト/クリエーターと言えたのではないか。
ヴォーカリストが抜き差しならない奇妙なキャラクターである点はDEVOの
ようだが、その世界はやはりフリークス色が強く奇妙な表現であふれており、
簡単に読ませるものではない
本作はその彼らの記録を2枚にまとめたものだが、巻上公一の喉声と泉水敏郎
らの立体感があり、独特のアレンジでこれまた、他では見られない奇異な世界
へあらためて連れて行ってくれる。音楽手法としてはあまり変更がなかったのか、
続けざまに聴いても世代の差がないのは良いのか悪いのかはわからない。
Disc.1の1〜3まで聴くともう昇天しそうである。
ツイン・ベスト 関連情報
2013年5月ニューヨーク録音。
ヒカシューのライブを観ていると、この人たちは何でもありなんだな、という不思議な全能感が伝わってきます。このアルバムもそうです。
前作「うらごえ」が、単なる裏声ではなく、「思いがけず裏返った声」だったのと同じように、本作の題名「万感」も、いわゆる感無量の同義語ではなく、「いろんな感じ」を意味しているのではないか。そんな穿った考えをしたくなるくらい、何でもありです。
全11曲のうち、即興は3曲、残りは楽曲ですが、とにかく多彩です。
前作の緊迫感をそのまま引き継ぐような「目と目のネット」に始まり、古典芸能を思わせるゆったりとした節回しが印象的な「なのかどうか」、やけにお洒落な曲にのせてニワトリの生活が歌われる「にわとりとんだ」、赤塚不二夫+ブラックサバスという舞台で演じられる芝居のような「もし もしが」、NY録音とは思えないほどドメスティックなムード歌謡「惨めなパペット」……
対照的なスタイルが同居しており、折衷的で、全くさまざまな要素が詰め込まれているのですが、それでいて本作が、ただの雑多な寄せ集めかと言われればそうでもなく、不思議とまとまりのある作品だったりします。
演奏自体も見事なもので、前作では、スタジオ録音でありながらメンバーそれぞれの表現が有機的に絡み合い、渾然一体となるさまが生々しく捉えられているのが印象的でしたが、そうした局面は本作でも随所に見られます。
たとえば「ニョキニョキ生えてきた」は、詩をつけて歌うこと自体が信じられないほどリズムが目まぐるしく変化する曲ですが、中間部で展開される長尺のジャムセッションはまさしく圧倒的で、このバンドの高い演奏力が存分に現れています。
それにしても、ヒカシューとはとらえどころのない存在です。絶えず変わり続けているので、人によってヒカシューに対する印象が大きく異なるのも、ある意味やむをえないことかもしれません。
群盲、象を撫でる、という言葉がありますが、見ようによって全然違う姿を捉えてしまうのがヒカシューの面白く、また困ったところでもあります(なんせ、ヒカシューってこれこれこんなバンドと人に分かりやすく説明できない)。そもそも象と違って、さだまった全体像というものがありませんので、余計に大変です。
すこし前のライブで、会場のお客さんにリクエスト曲を募るという試みがありましたが、集まったアンケートの結果は、ものの見事にバラバラだったそうです。これはつまり、世間がヒカシューに期待することが、バラバラであることを示しているわけです。
こうなると、少しでも理想に近づけるには、ヒカシューにひとつでも多くの作品を遺してもらうしかありません。そのためにも、本作はひとりでも多くの人に買われるべきでしょう。
それにふさわしい、紛うことなき傑作です。
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ヒカシュー
巻上公一 ヴォーカル、テルミン、コルネット、尺八、口琴
三田超人 ギター、コーラス
坂出雅海 ベース、コーラス
清水一登 ピアノ、シンセサイザー、バスクラリネット、マリンバ
佐藤正治 ドラムス、コーラス
曲目
1 目と目のネット
2 なのかどうか
3 ナボコフの蝶
4 にわとりとんだ
5 祈りのカラー
6 ニョキニョキ生えてきた
7 人間に帰りたい
8 もし もしが
9 惨めなパペット
10 みえない関係(充電してる)
11 そのつもり
全11曲 時間53:46
万感 関連情報
「ヒカシュー・スーパー」初CD化。いやぁ待ちましたね。
これは1981年に発表されたベストアルバムで、当時はアルバム未収録だったCMやドラマで使用されたシングル曲等が入っているところがポイントでしたが、現在既にCD化されている「ヒカシュー+2」「夏+2」「うわさの人類」の3枚を持っていればオリジナル曲全てカバー出来るので不要かも知れません。
しかし今回のCD化の一番のポイントは、最後の2曲にあります。
1980年に渋谷公会堂で行われたザ・ベンチャーズとのジョイントライブ音源であり、今回初CD化となります。
特に故・加藤和彦と近田春夫のお二人が演奏に参加しているパイクは、私が今まで聞いたパイクの中では最高のものです。
個人的にはこのライブ音源の為だけでも購入の価値がありました。
ヒカシュー・スーパー(紙ジャケット仕様) 関連情報