治安維持法 - なぜ政党政治は「悪法」を生んだか (中公新書)
著者は、なぜ自身も結社である政党が、自らを縛りかねない結社取締法たる治安維持法を生んだか、という問いを発する。 大正一四年の護憲三派の加藤内閣による制定時、七条からなるこの法律は、「国体」と「私有財産制度」を暴力によって覆そうとする勢力、共産主義政党と無政府主義の結社を取り締まることのみを目的としていた。しかし、数年後にこの法律は、結社を取り締まるばかりでなく、国体と私有財産制の否定を目的にすると(司法当局が)みなした宣伝活動を取り締まることが出来るように改正される。これも政党内閣(政友会の田中内閣)の手によって。 言論の自由を規制できるようになった法は、守るべき「国体」の定義も曖昧に、拡大解釈による膨張の一途をたどっていく、と本書は指摘する。警察による恣意的な法運用を許し、自由主義や反戦運動も適用の対象となり、「治安維持法はもはや、内務省(警察行政を所管する)と司法省のつくる治安維持のシステムに組み込まれ、膨大な要求に支えられた、顔の見えない怪物となっていた。」と著者はいう。 言論の自由と社会の安定を暴力で覆そうとする勢力を規制する。このことに異を唱える人は少ないだろう。今のアル・カイーダと同じように、共産主義勢力は確かにそうした時期があった。漸進的に、議会制民主主義による立憲君主体制の道を歩んでいた戦前の日本を暴力から守ろうとして、政党政治は稀代の悪法を生んでしまった。 治安維持法の何が問題で、我々は政治的自由と民主主義を暴力から守るためにどうしたらよいのか。戦前の政党政治から何を教訓として得るべきか。このことを真摯に考えさせられる好著。 治安維持法 - なぜ政党政治は「悪法」を生んだか (中公新書) 関連情報