山村修は初め狐という匿名で書評を書いていて、高校生の私がはじめて出会ったのが、この本より以前の『野蛮な図書目録 匿名書評の密かな愉しみ』(洋泉社1996年)でした。日刊ゲンダイなんて見たこともないところに書かれていた書評を集めた本を、どうして知ることになったのか、それはまったくの偶然なんです。
金沢への小旅行の帰途、とある書店でふと手にして最初は何だこれって感じでした。匿名で書く書評なんて、どうせ文芸誌のコラム欄のウジウジした独りよがりの偏屈に決まっているわ、と嘲笑って頁をめくってみると、何だか様子が変です。
まず序文で、この著者のただならぬ異様さに圧倒されました。見知らぬ本屋の一角で、呆然としてワナワナと震えながら立ち読みしている様をご想像下さい。
少し引用してみると、
序 野蛮としてのブックレビュー
本は立って読む。夜、自室の出窓に小さなライトを置き、その前に立って読む。あらかじめ時間を区切っておいて、その時間内は立ちながら読むことに沈潜する。
ね、これだけでも普通じゃないでしょう!
このあとに 1言葉の棚 2紀行と食の棚 3歴史の棚 4遊戯と芸の棚 5日記と随筆の棚 6夢想と悪徳の棚 7評伝と伝記の棚 8映画と本の本の棚 9漫画の棚 と9つに分けて199冊の紹介がなされています。
この時点でこの中で私が読んでいたのはわずか32冊にしかすぎませんでした。読書狂を自任していた浅はかな高校生の鼻柱は微塵にも打ち砕かれてしまいました。それから何年もかけて紹介本を全部読破しました。
この本もその続編、やはり800字の中にギュッと本のエッセンスを濃縮して私たちに眼を開かせてくれます。読む本は選らばねば人生は短いのだ、と文中で自分でいっているくせに、またしても読みたい本を増やしてくれるのでした。
書評家“狐”の読書遺産 (文春新書) 関連情報
尾道三部作のあの名作を
なんと角川春樹、自らが監督してリメイク!
とこれだけで、見たくなる一品。
作りは、かなりオーソドックスで、
大林宣彦版に比べると作品内に流れる時間もゆるやかだ。
画面の美しさは、やはり大林版に見劣りする感はあれど、
監督が何を大事にしているかが伝わってくる。
これで主演の中本奈奈に、原田知世並みの透明感があれば作品の評価もグッと上がるだろうに・・・。
監督の弟の芸能事務所所属の中村俊介とこの中本奈奈を使ってくれと言われたからなのか、そこが惜しい。
手前に物を置いた、いわゆる「ナメshot」がお好みのようで多様されているが
ラストシーンでロウソクの炎ナメで走る芳山クンのカットが、
燃え盛るのは「恋心」のようで非常に良いカットだった。
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以前、テレビで放送された時に見て面白いと思い、ビデオで出たら欲しいと思っていましたが、
DVDに市場では見当たらない作品の一つでした。
はでなドンパチはなくても、巡洋艦や駆逐艦が狭い水路を進むシーンなどのミニチュアとは思えない
緊迫感を感じます。
何と言っても、5000名もの将兵を全員無傷で救出する話なので安心して見られます。
この時の司令官はアメリカが選んだ名将100選に入っていたとテレビで言っていましたが、
アメリカも絶対的な包囲網を抜けて一人残らず撤収させていたことに「敵ながらあっぱれ」と思わせる
作戦ではなかったかと思えるエピソードです。
特殊効果も最近のCGと違って、アナログな手作りですが、白黒画面が本物のようなを緊迫感を醸し出し
実写との違和感がほとんどなく、円谷英二監督の特殊効果の凄さを見ることができます。
東宝は結構面白い作品があるのですが、一部の知られた作品しか面に出てこない事が難点です。
太平洋奇跡の作戦 キスカ【期間限定プライス版】 [DVD] 関連情報
もちろん水の戯れも良いしその他の曲も良いです。たっぷりの響かせ、たっぷりと歌ったラヴェルです。ピアニッシモはかすれず、フォルティッシモは破れない、こういうのをたっぷりとした響きである、と教えられます。フランソワのスケールの大きさに涙するばかりです。
1960年代前半で、フランソワの体調がおかしくなる前の録音なので、テクニックにも破綻がないように思われます。厳密な意味で、というより、あら捜しすればそれはわかりませんが、私にはフランソワに関してはそういうことは不必要だと思っています。
全集の1では、あえて『鏡』をお勧めいたします。第一曲『蛾』の第一音のなんと丁寧な響きでそのまま引き込んでくれることか。ギーゼキングのさらさらしすぎた弾き方とは違います。『道化師の朝の歌』では、三連符のところではテンポを動かしてはいますが、それが却ってせかせかしない動きというものを表現していて、これもフランソワの世界に引き込まれてしまいます。その他、聴き所はいっぱいあります。
ただし、いくつかあるフランソワ名物の内の一つ、譜読みの間違いは第一曲にも健在でした。再現部の約11小節くらい前の小節で、左手AS-ASの八分音符の分散オクターブを、その一オクターブ半上のF-Fと弾いているのです。どうやら、ヘ音記号を見落としたのかな??さもなければ、フランソワの使用楽譜にはト音記号のままだったのか、それとも、「作曲家」フランソワの感興がそのように弾いてしまったのか、謎です。この点を赦せない方は、この演奏の評価は低く見積もると思います。私はこのことで、曲の流れを阻害されませんでした。だから星が5つになってしまうのです。
フランソワの幻想の世界をお楽しみください。
ラヴェル:ピアノ全集(1) 関連情報
あの頃映画 東京物語 (DVD) 小津安二郎生誕110年・ニューデジタルリマスター
作品自体については、星がいくあっても足りません。ここでは、「商品」としての評価を書いてみます。
この商品は小津監督生誕100周年記念として2003年に発売されたDVD-BOXセットの分売で、さらに期間限定価格(2008年末まで2,800円)で売り出されたものです。DVD-BOXセット発売に当たってデジタルリマスター修復がされており、おそらくLD発売時に収録したと思われる、 白井佳夫、笠智衆、川俣昂、斉藤武市各氏のオーディオ・コメンタリーが付いています。
まず、デジタルリマスター修復版。この作品は撮影ネガはもちろんオリジナルに近いポジも失われており、傷も多く微妙なコントラストも失われています。ですので、「デジタルリマスター修復」で、オリジナルに近い形で蘇ることを期待したのですが、見事に裏切られました。「デジタルリマスター」で思い浮かぶ"STAR WARS"の仕上がりには足元にも及ばない出来になっています。
良くはなっていますが、コントラストは潰れたまま、消えていない傷もあります。技術的な限界ではありません。98年に東京大学総合博物館の「デジタル小津安二郎」展では、笠さん・東野さん・十朱さんの酒席のシーンが、見事に復活していました。要は、松竹さんのやる気の問題です。「デジタルリマスター」はしていますが、「修復」と掲げるのは羊頭狗肉かと思います。
次ぎに、オーディオ・コメンタリー。司会役の白井さん、勉強していません。松屋を三越と勘違いするなど、準備不足ありありです。著書で日本映画モノクロの部の2位にこの作品を入れるくらいですから、最低限の準備の上で、この仕事をしていただきたかったと思います。でも他の3名は制作現場にいた方ですので、貴重な話も多く、このオーディオ・コメンタリーには、史料的価値があります。ですから、今回の制作に当たっては、蓮實さんとか川本さんのコメンタリーをもう一つ入れれば良かったのではないでしょうか。
最後に、パッケージング。いくら期間限定特別価格だからといっても、このオーディオ・コメンタリーの収録日くらいは入れていただきたいと思います。
ここまでだめ押ししての結論ですが、2,800円でそこそこの画質、しかも貴重なオーディオ・コメンタリーが付いた不朽の名作が手にはいるのですから、お買い得かと思います。DVD-BOXセットに大枚を払うのをためらい、単独発売でもその価格に購入を見合わせていた方には、この機会での購入をお勧めします。待っていて正解でしたよ。サードパーティー製廉価版の同タイトルが出ていますが、3倍近い金額を払う価値はあるかと思います。
とはいえ、商品としての詰めの甘さから、星は3つです。没後50年(2013年)記念での、デジタルリマスター「完全」修復版、お待ちしています。
あの頃映画 東京物語 (DVD) 小津安二郎生誕110年・ニューデジタルリマスター 関連情報