J.S. Bach: Sonatas and Partitas for Solo Violin, BWV 1001-1006 [Hybrid SACD]
古今東西の名手たちが、その個性を競うように「無伴奏ヴァイオリンソナタ&パルティータ」を録音している。たとえば、ギドン・クレーメルの演奏は、一度聴けば、その独特の世界にあっという間に誘われ、圧倒される。そのほか、如何にもといった技巧派の演奏も多い。翻ってユリア・フィッシャーの場合はどうか?真っ先に私が魅かれたのは、瑞々しくて美しい音色だ。バッハに限らず、彼女のどのアルバムにも共通することだが、彼女の奏でる音に「醜い」響きがない。それをもって、おとなしい(平凡な)演奏(解釈)と感じる諸氏も多いかもしれない。しかし、彼女の場合、一音一音を大切に愛でるようにはっきりと奏でる。恣意的さを感じさせない自然な指の運びやボーリングの変化が生み出す響きは実に豊かで、音の強弱、音の粒、フレーズごとの音の流れなど、微細なニュアンス表現が本当に素晴らしい。録音も秀逸で、残響が少なく音が濁ることもない。曲の輪郭も内なる構成も明瞭そのものだ。この点、SACDの利点が生きている(ハイブリッドなので普通のCDプレイヤーで再生可)。次に大いに感心したのは、彼女の演奏からバッハの楽譜が浮かび上がってくることだった。他者の演奏でこのような感覚を持ったことは、これまでなかった。これは、彼女の演奏が個性の欠けた教科書的な味気ない演奏だという意味では決してない。むしろ、それとは全く正反対の強烈なインパクトだった。彼女が 8歳の時にオーケストラをバックにべリオのVn協奏曲を演奏する映像を観たことがあるが、ヴァイオリンを始めて数年にしかならない子供の姿はそこにはなく、作品を読み込みそれを表現する音楽家としての風格に満ちていた。このアルバムもまた、バッハの時代考察と、楽譜との奥深い真摯な対話があってこそなしえた演奏なのだと強く感じた。バッハが楽譜という設計図で表現しようとした造形作品をフィシャーほど純粋かつこの上なく美しく築いた演奏家を他に知らない。21歳という年齢も、女性ということも関係ない。音楽に対する確固たる哲学があり、それを楽しむことができてこそなしえる演奏だと思う。個性的(言い換えれば恣意的?)な演奏は、ある種の意外性から、たやすく心を惹きつけられるし、楽しい。しかし、えてして主観が勝り、作品の素晴らしさは二の次になってしまう。彼女の演奏は、このバッハの作品の真の美しさを魅せてくれる。聴けば聴くほど、味わいが出てくる。面白みが伝わってくる。記号に過ぎない楽譜が、命を吹き込まれて浮かび上がってくる。そして、何度聴いても心地よく癒される。このアルバムに出会えて実に幸せだ。追記このアルバムは、フランスの「ディアパゾン・ドール」や「ル・モンド・ド・ラ・ミュージック」のCHOC賞、「BBCミュージック・マガジン」誌から年間最優秀新人賞を得ているそうです。これらは「グラムフォン・マガジン」や「レコ芸」の特選みたいなものです。 J.S. Bach: Sonatas and Partitas for Solo Violin, BWV 1001-1006 [Hybrid SACD] 関連情報
大好きなユリアフィッシャーのバッハ・ヴァイオリン協奏曲ということで即買い。ユリアらしく、大変素晴らしい演奏です(ハーンの演奏とは対称的)。ただ、協奏曲のアルバム曲順が個人的には気に入りません。また、SHM-CD音質をちょっと期待していましたが、期待はずれで全く良さを感じません。SACDに聞き慣れてしまっているせいかもしれませんが・・・。
バッハ:ヴァイオリン協奏曲集 (SHM-CD) 関連情報
導入部から第一主題までは非常にゆったりとしたテンポで進んでいきますが、
しだいにフィッシャーのペースが速くなり、軽快なチャイコンを聴かせてくれます。
ハイフェッツのは速すぎて、軽い感じがしてしまいますが、
フィッシャーは聴かせるべき所はしっかりと聴かせる、緩急自在な演奏を披露しています。
フィッシャーとクライツベルクの息がぴったりと合った演奏といえるでしょう。
フィッシャーのテクニックはたいしたもので、一音一音が実にていねいに演奏されています。
フィッシャーのバイオリンの音は実に美しく、それはJ.S. Bach: Sonatas and Partitas for Solo Violin, BWV 1001-1006 [Hybrid SACD]で堪能できますが、オーケストラをバックにして聴くことのできる本作は、それとは別の魅力があります。
何回もリピートして、いつまでも聴きたくなるような美音です。
もちろん、SACDの能力を生かした録音がされており、ダイナミックレンジが広いので、
静かな環境で、良いオーディオ機器でお楽しみください。
Violin Concerto (Hybr) 関連情報
W.A. Mozart: The Violin Concertos
2011年1月25日リリースだが、元々は以下の内容でリリースされていて、それをボックスにしたものである。
・モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番、第4番(PentaTone、PTC5186064)
・モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第1番、第2番、第5番(PentaTone、PTC5186094)
・モーツァルト:協奏交響曲他(PentaTone、PTC5186098)
ユリア・フィッシャー(Julia Fischer, 1983年6月15日 - )は1716年製ストラディヴァリウス『Booth』を使用して、本アルバムを演奏していると思われる。彼女は実はピアノも素晴らしくて、 1995年のユーディ・メニューイン国際コンクール他8つの国際コンクルールで全て優勝しているのだが、そのうち3つはピアノで受賞している。特に『サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番、グリーグ:ピアノ協奏曲(2008年1月1日収録、Decca、UCBD1105)』はフランクフルトのアルテオーパーのライヴDVDなのだが、ヴァイオリンとピアノ、両方のソリストを演じている。恐るべき才能の持ち主だ。
モーツァルトのヴァイオリン協奏曲と言えば、ヴァイオリン協奏曲第5番が1775年12月20日にザルツブルクで完成していて、この時まだモーツァルトは19歳である。つまり、ほぼ10代でヴァイオリン協奏曲の全作品を書き上げているわけで、モーツァルトの天才の証明のような作品だと思うのだが、これをやはり当時20代前半であったユリア・フィッシャーが、類まれな表現力で聴かせてくれる。もう天才と天才が組み合わさるとこんなに凄いものができるんだ、と思わずにはいられない演奏だ。しかも音質はSACD。文句なしである。
特に『トルコ風』の第一楽章のカデンツァが凄い。顔も加藤ローサさんに似た美人。天は二物も三物も彼女に与えている。そう思わざるをえない作品である。
W.A. Mozart: The Violin Concertos 関連情報
Julia Fischer
Bach Concertos
Concerto for two violins in D minor, BWV 1043 - 14' 46
Violin Concerto in A minor, BWV 1041 - 13' 22
Violin Concerto in E major, BWV 1042 - 16' 28
Concertos for oboe and violin in C minor BWV 1060 - 14' 06
Julia Fischer, violin
Alexander Sitkovesky, violin
Andrey Rubtsov, oboe
Academy of St Martin in the Fields
Recording: London, 2 - 4 June 2008
バッハのヴァイオリン協奏曲は難しい作品だと思う。ヴィヴァルディの影響を受けていると言われるが、BWV 1041 第2楽章のバッソ・オスティナートはドイツ的だし、同楽章の始めのあたり(ユリア・フィシャー盤でいうと track 5 の 1' 55 あたり)に出て来るヴァイオリン・ソロの旋律は『ニーベルングの指輪』のノートゥングの動機のように輝かしい(その部分はハーンの演奏Bach Concertosで聞くと気持ちよい)。
そして、上記作品群のリトルネッロの鮮やかなこと! その鮮やかさは、なかなか演奏するのが難しいらしく、ヒラリー・ハーンの演奏では、ほとんどヴァイオリン・ソロばっかりしか聞こえてこない。
バッハのヴァイオリン協奏曲においてはトゥッティとソロの交替が完璧でなければならない。このフィッシャー盤においても、BWV 1043, 1041 では、トゥッティとソロの交替は、うまくないし面白くない。ただし、3曲目の BWV 1042 のリトルネッロは悪くない(第1楽章の間の取り方が良い)。Academy of St Martin in the Fields は指揮者を置かなかったのがかえってよかったと思う。4曲目の「オーボエとヴァイオリンのための協奏曲 BWV 1060」は、第1楽章と第3楽章でフィッシャーのヴァイオリンと Andrey Rubtsov のオーボエが、かぶって聞こえるのが惜しい。
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