出久根達郎 商品

出久根達郎 作家の値段 (講談社文庫)

古書の値段を通して作家の作品に対する深い観察力と審美眼、本を通して作家への愛情が感じられる書でした。
直木賞作家で、高円寺で古書店を営む出久根達郎が過去に扱った古書の思い出やエピソードを小説の内容と共に織りなす知識の深さは古書好きや本好きにとってよいプレゼントだったと思います。

初版本を求める心境はなかなか理解できませんし、帯のあるなしで値段が相当違う実情もマニアではないのでなんとも言えません。ただ贔屓の作家の珍しい作品を読みたいという気持ちはよく分かっています。

梶井基次郎の項で、友人の息子K君が「戦前の初版本なのです。梶井基次郎の『檸檬』。これって稀覯本ですよね?」と電話をよこしてきました。『檸檬』は武蔵野書院版が本当の初版で、昭和6年5月15日に刊行されているそうで、美本なら25万円ということにも驚きましたが、戦前発行の初版も4種類あることは知りませんでした。その当時の梶井の母ひさの看護日誌が登場したり、初版本の写真が掲載してあったりします。結局K君は購入した本は細工本であったことなど、古書ならではの悲喜こもごもが書かれていました。全編にわたって知識の宝庫、といえる内容でした。

取り上げられた作家は、皆物故者ばかりです。司馬遼太郎、三島由紀夫、山本周五郎、川端康成、太宰治、寺山修司、宮澤賢治、永井荷風、江戸川乱歩、樋口一葉、夏目漱石、直木三十五、野村胡堂、泉鏡花、横溝正史、石川啄木、深沢七郎、坂口安吾、火野葦平、立原道造、森鴎外、吉屋信子、梶井基次郎など、綺羅星のごとく、明治大正昭和の文壇を飾ってきた作家です。それらの本の値打や値段は、内容と希少性の両方がマッチしないとだめなのでしょうね。 作家の値段 (講談社文庫) 関連情報

出久根達郎 隅っこの四季

昔か古書店によく出入りしているが、そういう人間でないと分からないことが多々拝見される 隅っこの四季 関連情報

出久根達郎 本は、これから (岩波新書)

 「本のこれから」「これからの読書の在り様」「紙媒体の読書と電子書籍の読書」といったテーマで、本や読書と深く関わってきた人たち37人の文章(それぞれ、五〜七頁ほどの分量)を収録した新書。
 Kindle も iPad もまだ手にしたことのない、紙媒体の本onlyの生活を送る私にとって、「へぇー、世の中は今、そんなことになっているんだ」と、これはなかなか刺激的な体験でした。「自分にとって本を読むこと、読書することって、一体なんだろう」「電子書籍を未来のどこかで手にするとして、それをどう利用していこうかな。でも、紙媒体の本は本で、自分にとって大切な人生のアイテムとして、これからもきっと読み続けていくだろう」などと、掲載されたエッセイのあれこれを読みながら、色々と考えさせられましたね。

掲載された37の文章の書き手は、以下のとおり(掲載順に)。
池澤夏樹。 吉野朔実。 池内 了。 池上 彰。 石川直樹。 今福龍太。 岩楯幸雄。 上野千鶴子。 内田 樹。 岡崎乾二郎。 長田 弘。 桂川 潤。 菊地成孔。 紀田順一郎。 五味太郎。 最相葉月。 四釜裕子。 柴野京子。 鈴木敏夫。 外岡秀俊。 田口久美子。 土屋 俊。 出久根達郎。 常世田 良。 永井伸和。  長尾 真。 中野三敏。 成毛 眞。 南陀楼綾繁。 西垣 通。 萩野正昭。 長谷川 一。 幅 允孝。 原 研哉。 福原義春。 松岡正剛。 宮下志朗。

 なかでも、平明でわかりやすく、すっと心に入ってきて、「ふむふむ。それは言えてる気がする」と頷かされたのは、次の八つの文章でした。
  池上 彰「発展する国の見分け方」
  石川直樹「歩き続けるための読書」
  五味太郎「実用書と、僕の考える書籍と」
  最相葉月「永遠の時を刻む生きた証」
  柴野京子「誰もすべての本を知らない」
  幅 允孝「本と体」
  松岡正剛「読前・読中・読後」
  宮下志朗「しなやかな紙の本で、スローな読書を」 本は、これから (岩波新書) 関連情報

出久根達郎 雑誌倶楽部

本書のコンセプトは、概ねこのページの上の方にある「商品の説明」に紹介されている通りの内容で、大正から昭和バブル直前辺りまでの当時発行されていた雑誌(月刊誌ー古本)を取り上げ、記事内容の考察・解説とともに、当時の世相・習俗を紐解くものである。この意味で本書は、エッセイと言うよりもユニークな民俗歴史論の1つと言えると思う。但し右「商品の説明」には「明治〜昭和のおもしろ記事発掘エッセイ」とあるが、本文中で「明治」期のものに言及することはあっても、雑誌として取り上げているのは大正2年10月号の『學生』が一番古いものである。

具体的構成は、合計38誌を1月号から12月号まで各月に3誌〜4誌(1・2月のみ)を取り上げ、かつ戦前と戦後の刊行誌を各々に配してバランスを取っている(但し9月のみ3誌全てが戦前発行)。現在も発行されている『文藝春秋』は大正14年5月号を取り上げている(後述参照)。当時の雑誌記事の紹介と時代・風俗背景を併せ、大正期、関東大震災後、戦前、戦中の世相や習俗について臨場感を以って伝えるもので、加えて月毎にトピックを分け季節感も織り混ぜるという巧みな構成は評価される。取り上げた雑誌の中には、本文記事内容だけでなく広告や読者投稿欄にも及ぶものがあり(昭和9年『日本少年』、昭和33年『実話雑誌』ほか)、当時の流行や世相の実証的観察にも優れた筆致が窺え、著者の慧眼にも感心する。

個人的に印象に残ったのは、前記の大正14年5月号の『文藝春秋』における「伏字小説」(114〜120頁)。あの『文藝春秋』が、著者に言わせると「伏字を効果的に使った小説」を掲載している。「伏字を効果的に使った」というより、ばかばかしいほどの「伏字」のオンパレードで訳が判らないだろうと思える(苦笑)。加えて本号の編集後記で当該号の価格を(25銭から30銭に)上げたことについて、製作費内訳を細かく示して読者に謝罪懇請していることが興味深い。著者は発行人の「菊池寛」の人柄であると評価しているが、確かに「明けっぴろげな方針」(120頁)と言えるだろう。その他挙げると限りがないが、戦後のトピックでは著者の回想も織り混ぜられ良く纏まっており、エッセイ以上の世相・民俗の歴史論としてユニークな一冊だろう。 雑誌倶楽部 関連情報

出久根達郎 本と暮らせば

本書は《日本古書通信》連載のエッセイ69篇に、文庫解説および書評6篇を収めている。
沢村貞子『私の浅草』で傷物のみかんを「当りみかん」と呼んだという話から始まり、中谷宇吉郎のエッセイ「I駅の一夜」、「堀江遊廓六人斬り」の被害者・大石順教、坂東三津五郎『戯場戯語』…と、本に関する逸話が続く。
もちろん著名作家の小話も点綴されるが、『斜陽日記』の太田静子(太宰の愛人)、与謝野晶子に『源氏物語』を訳させた小林政治、志賀直哉の弟・直三。熊本時代の漱石が通った古書店の主人・河島又次郎、同じく漱石の松山時代の下宿の孫娘・久保より江、『漱石全集』で不詳とされる書簡の宛先人・高田元三郎。内田百が文章を寄せた『羅馬飛行』の栗村盛孝、等々周辺人物のエピソードが興味深い。
高村光雲、小杉天外、中村武志、佐々木邦、川喜田半泥子、梅原北明の著書のほか、石塚喜久三『回春室』、白柳秀湖、関口良雄『昔日の客』、尾津喜之助『尾津随筆 娑婆の風』、内ヶ崎作三郎『白中黄記』、谷孫六、高山辰三『季節の横顔』、といった知る人ぞ知る人物とその作品も採り上げられ、どの話も面白い。 本と暮らせば 関連情報




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